増田ふるさと公園の四季  里山とは何だろう?
 辞書を引くと「集落の近くにあり薪炭用木材や山菜などを採取していた、人と関わりのふかい森林と
それに隣接する田畑、ため池,用水路などがセットになった自然を里山と呼ぶ」とある。この辺りもかつてはそうであった。
薪炭生産のために、伐採や、株立ち、植栽を繰り返してきた二時林にはキノコも沢山生えた。
現在、日本の高等植物の1/3が絶滅の危機に瀕しているとの報告がある。つい最近までごく普通に見られた昆虫や植物が絶滅危
惧種に名を連ねている。

燃料は化石燃料に変わり、山は見向きもされなくなってきた。単に風景の一部分としての存在でしかない。
平地では圃場基盤整備や河川改修事業、中山間地では減反政策による耕作放棄田の増加などで彼らの住み場所を奪いこの様な結果をもたらしたのだ。

また、山林や平地が「開発」の名のもとにゴルフ場や公園になり、今まで見たことのない様な植物が植栽されている。
これらの植物のほとんどが外来種で国が定める「外来生物法」のワースト百に指定されている物が多数ある。
そのため在来種の生存を脅かし、また遺伝子の撹乱も起こっている。三木市にあっても例外ではないが
幸いにしてこの辺りにはまだ幾種類かの貴重な生物が細々と生育を続けている。これらを「何としても保護し
後世に残したい」と言うことで面積わずか1ヘクタール足らずであるが[増田ふるさと公園]として保全地区が誕生した。

公園と名は付いているが、ベンチも遊具もない。ただ懐かしい里山の原風景が穏やかに心を癒してくれる。
小さな花や虫や魚たちが静かに迎えてくれる。そんな「増田ふるさと公園」の四季のこよみを紹介しよう。

いのち萌える里山の春

1、2月 公園の一年は、野山が未だ眠りについている1月下旬の「畦焼き」から始まる。増田地区との共同作業だ。
野焼きをすることで越冬している害虫の駆除になるという。
だが「害虫」とか「雑草」という言い方は止めよう。
これらはすべて人間を主体に呼び方であるからだ。
それはさておき、野焼きによってできた灰は適度の肥料になり、酸性に傾いた土壌を弱アルカリ性に戻してくれる効果がある。
昔から延々と受け継がれてきた里山の風物詩には、生態系を保つ重要な意味があったのだ。

3月 灰色一色だった冬枯れの山々が、暖かみのある色に染まってくる。木々が芽吹きの準備をしているのだ。
山際の水路には、セトウチサンショウウオや、ニホンアカガエルの卵塊が、水路の脇では、泡でつつまれたシュレーゲルアオガエルの卵塊が観察できる。
一方、野に目をやると早くもオオイヌノフグリやキランソウがコバルトブルーの花を付けだした。
春はすぐ目の前まで来ている。
4月には春の七草が揃う。セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロ。
しかし、スズナ(カブ)、スズシロ(ダイコン)は栽培していないので五草だ。丁度この頃、「木の芽や草の芽を採って観察し
口にして公園の春を学び、楽しんでもらおう」と計画された「春の野草会」が開かれる。
三愛研が毎年行っている活動の一つである。
夏は貴重種のオンパレード

新緑の山裾に、ピンクの絵の具を落としたように、コバノミツバツツジが咲きはじめると、
里では田起こしや苗作りにと、田植えの準備で忙しくなってくる。
一回目の草刈りが行われるのもこの頃だ。
明るくなった草原や法面には、ササユリ、ウツボグサ、タツナミソウなど初夏の草花が生長し梅雨頃に開花する。
これらの花が終わった頃、二度目の草刈りがされ、秋の草花の成長を促す。
このように農作業と植物の生育サイクルとが、見事に関わり合
って
知らず知らずのうちに豊かな里山が守られてきたのだ。

7、8月 貴重種のオンパレードだ。
イシモチソウ、カキラントンボソウ、水辺では、ガガブタ、マルバオモダカ、ミズオオバコ、ミズトラノオ、
魚類のメダカやカワバタモロコ、ニホンバラタナゴの元気な姿も見られる。
昆虫では、シジミチョウ、ヒョウモンチョウの仲間コシアキトンボ、ハグロトンボ、チョウトンボ、
絶滅危惧種のコバネアオイトトンボやベニイトトンボなど一日居ても飽きることはない。
実りの秋にはフェスティバルも

9、10月 万葉集に「秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七草の花。
萩の花、尾花(ススキ)葛花、撫子の花、女郎花また藤袴、朝貌(キキョウ)の花」(山上憶良)と詠われた、
秋の七草がすべて一ヶ所で観察できるのは、おそらく全国的にも少ないだろう。

11月 ヤマラッキョウやリンドウが満開の11月初めには「ふるさと公園里山まつり」が開かれる。
市内小学校児童の学習発表やパネル展示、園内の観察会農産物の販売など、内容は盛りだくさんだ。
こうして公園を公開することにより、重要性の周知と貴重生物の愛護啓発になると企画された。
三愛研の活動中最も大きなウエイトを占める事業である。
12月 公園のため池には今年も1つがいのマガモがやってきた。
静かな冬の季節の到来である。
 (文・写真:池町敏彦)
                                                                                                 

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